なんていうか…つなぎの章←

Let me do as he likes.




家に入ると、何となく異様な空気が流れていた。
隣にいるリンは、気付いているのかいないのか、意に介していないそぶりでリビングへむかう。

「冷蔵庫に入れるまでが買い物だよ、ルカちゃん」
振り向いた笑顔は、何となくむなしく、寂しい。

ただいま、と声をかけるとそれぞれに、おかえりと返事をくれる。
相変わらず、メイコの目はまっすぐと射ぬくよう…
あぁ、いたたまれない。

「おかえりリンちゃん。何、買ってきたの?」
そう言って、リンに向けられる笑顔。
…避けられてる?
メイコとミクの間に流れる、どことなく気まずい雰囲気はなに。

「ミク姉の好物。あと、牛乳」
私の手から、さっと買い物袋を取り上げて台所へきえる。
えー、なになに!と言って、その背を負うのはミク。
通りすがりざま、小さな声で”ゴメン”と言った。
ゴメン…?何が?
何が、ゴメンなの?

ミクとリンの、楽しそうな笑い声。
リンは、私の前じゃ、あんなふうに笑わない。
リンに好きだと言った。
本心で伝えた好きは、彼女の冗談になった。
誰が好きかと聞いた。
ただ一言、”ミク姉”と答えた。

私の好きな彼女は、私じゃない誰かを想って笑う彼女だった。


「何を考えてるの」
貴女こそ。
そう言い返したところで、彼女の巧みな言葉にはぐらかされるだけだろうけど。

「ねぇ、キスしようか」
「何故」
思ったより掠れた声に自分で驚く。
何を今更…なに、緊張なんかしてるんだ、私は…
つかつかと近づいてくる彼女は、何となく魂が抜けたみたいで…いつものメイコじゃない。

あの日、彼女の温かい手を拒めなかったのは私だ。
拒否する余地なんて、いくらでもあった。

肩に手が置かれる。
ふっと、漂ってきたきた香りはどこかで嗅いだことのある…
唇に、唇がふれる。

違和感を感じて、彼女の表情を盗み見る。
あぁ、そうか…いつもの、すがるような強引さが足りない。
引き寄せる手がない。
ぼやける足元、少し背伸びをしているのは彼女だった。

だって、あんな目をするんだもの…
自惚れかもしれない。それでも、愛されてるんじゃないだろうかって思ってしまう。

彼女は、私がいないと死んでしまうんではないだろうかなんて…
その瞳は、まるで寂しがりのウサギ。

知らずに深くなっていた口づけに、足が震える。
思わず、もっと、と求めそうになって怖くなる。
彼女の身体を押し返すと、あっけなく離れた。
二人の間に架かる銀のかけ橋が、糸をひいてまた切れる。

何も言わずに背を向ける。
余韻も何もあったもんじゃない…

去っていく背中に、感じたのはいつぞやのデジャヴ。
どこで?
あの日、朦朧とする意識のなか、後ろ手に扉を閉めたメイコ。

とっさに、手を伸ばして彼女を引きとめた。
掴んだのは、服の裾。
何故?

わからない…わからないけど…

「あの…」
一体、メイコも私も、何がしたいというのか。
ミクもリンも、何が言いたいというのか。

私はミクが好きなの?
好きだ。でも、それは恋じゃない。
私はリンが好きなの?
好きだ。私の知るそれは、確かに恋。

じゃあ、メイコは?
メイコは好き?
答えが出る前に、無理やり思考の回路を切る。
成るようになる。

「私と少し、遊んでくれませんか…?」

メイコがふっと笑うのと、二人が台所から戻ってくるのが同時で…
まっすぐと、メイコをにらむリンと
少し、泣きそうな顔をしたミク。

彼女がそんな顔をしたのは一瞬で、次のときにはもう笑顔で…メイコに何か一言耳打ちした。

どこかで、嗅いだことがあるのは当たり前だ。
さっきのメイコと同じ香り…ミクとすれ違ったときに、もっと強く鼻先をかすめた。

どことなく複雑な色をしたメイコの目は、去っていくミクの背を追い
まるで、威嚇するように鋭いリンの瞳は、じっとメイコに注がれる。

「遊ぼうか、ルカ」






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