切なくもないし、甘くもないし…
どっちつかず宙ぶらりん
気付いてないんじゃない、気付きたくないだけ。
ただ、このままでいたかった。

それが、二人の関係


とか、仰々しく書いてみたけど、ただのルカとリンのお話
ルカ+リン…?
いや…うん…ルカとリン

Let me do as he likes.




花火大会か…
重たい買い物袋を両手にぶら下げて、人混みの中を逆流する。
流れに逆らうというのは、どんな場面であってもやりずらいものだ。

浴衣を着た若いカップルや、親子連れ。
楽しそうな雰囲気に、今年もこの季節がやってきたのかとしみじみ思う。
去年はレンと行ったんだっけ…
ミクとルカは二人仲良くおそろいの浴衣着て、メイコは家のベランダからでも見えるって一人酒飲んで…
今年は誰も、行かないのかな…

ふっと脳裏に浮かんだのは浅葱色。
誘ったらついてきてくれるかな…

アスファルトから立ち上る熱気にしわじわと汗が滲んでいく。
今日は風がないから、余計暑く感じるんだろうな。
風がないだけに今日の花火は綺麗にあがるだろう。
ただ、今夜は寝苦しい夜になることだけは間違いない。

手汗で滑るビニールの袋を、よいしょっと握りなおす。
牛乳の陰謀だ、この重さは。
自転車でくればよかったな…
今更だけど…

あぁ、疲れた。
肩に重みを感じながら、ぐっと空を仰ぎ見る。
なんで、夏って爽やかなイメージなんだろう…
実際の季節は、じめじめと暑くて、汗だってかきっぱなし…
視界を揺らす陽炎も、全然爽やかじゃないのに…

時刻は既に夕方でも、日はまだ全然高くて、涼しくなる様子なんて見受けられない。
行き交う人々の表情はみんな、とても楽しそうだ。
暑い暑いと文句を言いながら、それさえも楽しむように…
強い日差しが、じりじりと肌を焦がす。
やっぱりこの季節は、SPF25じゃ心許無い。
赤くなったらやだな。

流れていかない雲から目をそらし、また前を向く。
目の前に続く道は、嫌になるほどまっすぐと続く。
日陰なんてどこにも見当たらない。
このまま、荷物をほっぽりだしてクーラーの効いた部屋に帰りたい。

重たいし、暑いし…夏なんて、全然爽やかじゃない…
嫌いじゃ、ないんだけどね…
狂ったように泣きじゃくるセミの声、夏ってかんじ。
けど、その音が暑さを助長しているような気がするのはあたしだけじゃないはずだ。

ぺったんこのサンダルで、温度の上がった地面を踏みしめる。
あ、足に日焼け止め塗ってないや…
サンダル焼けとか、カッコ悪いな。
でも、仕方ないし…とっとと帰ろう…

「…ン……リン!」

振り向くと、ルカが早足でこちらにやってくるのが見えた。
白いワンピースに麦わら帽子、さらさらと流れる桃色の髪が綺麗。

なにその、爽やかな出で立ち…
なんでこんなに暑いのに、汗一つかいてないの…ずるいなぁ…
日傘も白だし…今日は白で統一の日なのね。

「買い物?いま帰り?」
ご機嫌、にこにこ、やっぱり爽やか。
夏だなぁ…

「ルカちゃん…ちょう爽やかだね」
何言ってんだろ、あたし。
不思議そうな顔で、ふわりとほほ笑んで、首を傾げて…
ちらりと見えたのは、首筋に咲く赤い華。

もうちょっと、隠せばいいのに…
もう、慣れたけど…

ルカがこちらに手を差し出す。
「荷物。」
「…持ってくれるの?」

一つだけね、そう言ってまたふわりとほほ笑む。
あたしが、一方の荷物を渡す前に反対の手からビニール袋を奪われる。
意外と強引…でも、優しい。

だって、そっちの荷物は牛乳が入っていて…見た目からも明らかにそっちのほうが重いってわかるのに…

「ありがとう」
「どういたしまして」

無言で隣を歩く
さりげなく、日傘に入れてくれてる。
背が高いの、羨ましいな…
いいな、サンダルもぺったんこじゃないや…
かかとの高いやつ。

あたしも、あと10cmくらい伸びるかな…
せめて、ミクの身長は越したいな。
あれ、メイコとミクってどっちのほうが身長高いんだっけ…

「ルカちゃん」
なにも言わずにこちらを見る。
言葉の続きを待ってる。

「メイコのこと好きなの?」
なに聞いてるんだろ、あたし。
でも、ルカの首筋に咲くその華はメイコが付けたんでしょう?

「好き…じゃないと思う」
「はは、ちょう曖昧」

隣のルカを見上げると目があった。
本当にいい女だと思う、ルカは。

「私が好きなのはリンだもの」

…。
「ハハハ」
乾いた笑い声は自分のものだった。
「ルカちゃんもジョーク言うんだね」

好きなんて、そんな破壊力のある言葉…。
目をみて言うもんじゃない。

好きという言葉のニュアンスが、どうしても掴めない。
掴めないから、苦しい。
ルカの蒼い瞳から目をそらすと、隣から微かに笑う声が聞こえた。

「リンは?誰が好き?」

大人になりたいなってぼんやり思った。
でも、大人ってなんだろう、どこからが大人なのかな。

「ミク姉」

ミクが好き。
あたしは、ミクが好きだ。

ちょっとだけ、背伸びをしてもう一度ルカを見上げた。
空より優しい色の瞳が待っていた。

「暑いね」
「うん」

あぁ、夏だなぁ…






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