メイ…ミク?

Let me do as he likes.




あたしが、触れている部分に熱がうつる。
壁についた手が汗ばんでいく。
今にも崩れそうな体を支えようと、手を壁に押し付けるたびに、汗でずるずるとさがっていく。


「……っ…!」


あたしの体温よりずっと熱い彼女の手が、丁寧に体の上を這っていく。
その手はゆっくりと丁寧なだけに、残酷だ。

「ミク……声、出さないの?」
後ろから、耳元でささやかれる声。
背中に感じる体温が、熱い。


温かい手が、焦らすように私の肌をかすめる。
服の前がはだけ、下着は足に引っ掛かっていた。
押し上げられたブラが少し窮屈だった。

ふいに、ぎゅっと乳房を掴まれた。
たいして大きくもないそこを、熱い手で何度も揉む。

「ん…はぁ…ぁ……」

なのに、指の間から顔を出す突起には触れようとしない。
わざとか故意か、たまに掠るたびにびりっとした刺激が流れる。

「なかなか強情ね」
「え?……んぅ!」

小さく呟くと、予告もなしに強く突起が引っ張られる。
微かな痛みの中に、確実に響く快感。

「…ふ、っ!……あ!」

どんどん、体温が上昇していく。
熱が、あるみたいだ。

乳首の快感に集中していると、ふぁさっとスカートが下ろされる。
クーラーが効く防音室では、あまりにも心許無い恰好だった。
裸同然の姿なのはあたしだけで、後ろにいるメイコはしっかりと服を着たまま。

耳元で、楽しそうにくすくすと笑うメイコの声が聞こえる。

「ふふ…やーらしい」
「う、るさい…っ」

メイコの熱い手が、徐々に下へ下がっていく。
触れた箇所だけ、また熱が上昇していく。

「ん…はぁ……あぁ、い…や」

くちゅっと音がして、細い指が触れる。
ゆっくりと、割れ目に沿うように指が上下する。

「嫌なの?こんなに…」
「言わない…で…っ!いや、じゃないから…あ!」

言われなくても、自分がどれだけ濡れているかなんて分かる。
あたしの言葉を聞くと、メイコはまた楽しそうに笑った。



あの日、メイコは驚くほど優しかった。
きっと、ルカを抱いた時はこんな抱き方しなかったんだろうな。
ルカの部屋から出てきた彼女の顔は、あまりにも余裕がなくて。
後ろ手に扉を閉めたメイコの手が、寒さを堪えるように震えていたのを、あたしは見ないふりをした。

メイコはあたしを見ていない。
彼女が見ているのはあたしじゃない。

あの時、なんでおとなしく寝たフリなんかしたんだろう。
部屋に入ってきたときに、まだ起きてるよって言えば良かったのに。

メイコがやりたいことは分かっていた。
単純だから、メイコは。
目線で分かる。

メイコが、なにがなんでも手に入れたいもの。
メイコがあたしに求めている役割。

憧れと恋の違いなんて、虹のようなものだ。
遠くから見れば七つの色ははっきりと見えるのに、色の境界線を探そうとしても、それはどうしても曖昧で。
見つけたと思った次の瞬間には、もう消えてなくなってしまう。

好きかと問われれば、迷わず好きと答えられるのに。
恋をしているのかと問われれば、どうしても口ごもってしまう。

いけないと分かっていながら、結局あたしは流されてしまう。


一度きりと思っていた。
きっと、メイコもそのつもりだった。
なのに、共有された秘密の所為で、雰囲気にあらがえなくなってしまった。
いつだって、拒絶することはできたはずなのに。



「最初はくすぐったいとか言ってたのにね」
「あ、ん、ああ……っ!」

ふわふわと心地の良い愛撫が重ねられていく。
それでも、頂点に登るほどの刺激はない。
あたしのなかでゆるりゆるりと動くメイコの指。

「メ、イコ…ぁ……」
「ん?なぁに?」
「楽し…んぁ……そう、だね…」
「うん。楽しい」

悪びれずそう言うと、彼女はぺろりとあたしの耳を舐めた。
耳の中に入り込んだ生々しい感触と、リアルに響く音。

「ミクは楽しくないの?」
「あ、ん……ぜんぜん」

「ふーん……イけないから?」
「ばか……んぁ」

あぁ、メイコはあたしに何か言わせようとしてるのか…
防音室はしっかりとクーラーが効いているはずなのに、二人の熱気で蒸し暑い。
じわりじわりと汗がにじむ。

「ねぇ…イきたい?」

意地悪な声に必死にうなずく。
メイコに抱かれているときはいつもそうだ。
体は余裕の欠片もないのに、頭の中はどこか冷静で…

どうすれば、メイコは喜んでくれるのかな…なんて。

だから、あたしは必死に声を絞り出す。
「イかせて…メイコ!」

もう一度、メイコがくすりと笑った。
いきなり押し込まれる二本の指。
ぎりぎりまで抜かれたと思うと、また突き上げられる。

「…っんく……ふぁ……っ!」

ずるずると壁についた手が下がっていく。
メイコの手がぐっとあたしの体を引き上げる。
とくとくという心臓の音を背中で感じた。

自分の鼓動か、彼女の鼓動か分からないけれど、愛おしかった。

「ああ…あっ…や……あ」
熱い吐息が耳の横にかかる。

いつも、あたしはこの瞬間が怖い。
まるで、一人でどこかに連れて行かれるみたいで…

メイコの肌の温度は感じるのに、メイコが傍にいない。


「……っ…ミク」
あっと言う間、考える暇も無かった。
ささやかれた名前から、ちょっとずつ溶けていく。

「んぁ……メイ、メイコ…っ!」
あたしの中で、一瞬だけメイコの輪郭がはっきりして、また曖昧になった。

何度も彼女の名を呼ぶあたしを、メイコはしっかりと抱きしめていてくれた。



ぼんやりしているあたしの代わりに、彼女が事後の処理をしていく。
彼女は脱がせるのも、着せるのも高速だ。
随分と手慣れている。

あたしがリンちゃんを捕まえるって宣言したのにな…
リンが好きかと問うた時の、ルカの驚いた顔。
メイコが好きかと問うた時の、ルカの動揺した顔。

憧れと恋。
情に流されたところでいいことなんて一つもないけれど、だからと言って欲に溺れれば、周囲を巻き込んで全てを壊す。
あたしはいったい、誰の幸せを…願えばいいんだろう。

最初のあの日から、メイコはごめんと言わなくなった。
あたしに、気を遣ってる。

だからこそ彼女は、残酷。


メイコはあたしにキスをしない。
だからあたしも、キスをしない。
メイコはけして、胸の内を明かさない。
だからあたしも、けして何も伝えない。

それでも、メイコがあたしを求めるから…
あたしは彼女の…求める…



あたしが一度メイコに抱かれるたび、ルカの首筋に一つずつ、真っ赤な華が咲いていく。






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