和声英語ばんざい


ミク視点

Speak low if you speak love.




「今からリン来るから」
「…へ?」
突然扉が開いたかと思うと、メイコの顔がのぞいてそう言った。
扉に体が隠れているので、生首だけ浮いているようで少し怖い。
「あの子、体が勝手に動いちゃう子だから。たぶん、ここ来るわよ」
返事をする間もなく、それじゃお幸せに、という謎の一言を残して消えた。
行動も言葉も、謎が多すぎる。

リン…?
体が勝手に動く…?
お幸せに…?

リンが来たら聞いてみよう、という結論を適当に見繕って、扉から目を…
「ミク姉!」
リンが立っていた。
なにか…怒ってる?

どうしよう…これは、まず誤るべき?
ごめんと言おうとして口を開くと、リンがつかつかと歩み寄ってきた。

「なんで…?」
「え?なにが?」

声の低さは突っ込まないでおく。
ベッドに腰掛ける私の目の前に仁王立ち。
これは見下されてるんじゃなくて、見下ろされてるんだよね…?

すっとリンの腕が伸びて、私の肩を掴む。

「リン…?」

ぐっと押すリンの力に負けて、私はそのままベッドにあおむけに転がされる。
一瞬天井が見えたかと思ったら、次の瞬間には視界が黄色くなった。

私…リンに押し倒されてる…?

「なんで、メイ姉なの…?」
「え…?だ、だから何が?」

とりあえず落ち着こうよリン、と言おうと思ったら、頬に何か温かいものが落ちてきた。

「え、あの…え…リ、リン?え?」
これは、どうすべき?

なんで、私リンに押し倒されてるの?
なんで、リンは泣いているの?
メイコは何の関係があるの?
というか、なんでリンはここにいるの…?

What…?

ここはどこ?あなたは誰?……
……

…とりあえず、私が落ち着こうか…

ずずっと鼻をすする音が聞こえる。

「ねぇ…ミク姉、メイ姉のこと好きなの…?」
「いや、好きだけど何か…?いやいや、リンのことももちろん好きだよ?」

開いた口からぺらぺらと言葉が流れ出す。
いったい何の弁解をしているやら…

「…どういう好き?」
「ど、どうって…?」
「メイ姉とアタシどっちが好き?」

影になって見えなかった彼女の顔が、やっとうっすらと窺えた。
怒りの表情ではなかった…ひどく、痛そうな顔。

「どっちも好きだけど…」

今更ながら、この格好だとリンがものすごく近くにいることに気づく。
とっくんと不穏な動きをする心臓。
胸の奥の痛みが、耳の奥で聞こえる。

「じゃぁ、アタシでもいい…?同じくらい好きならアタシでもいいんだよね…?」

だから、なにが…?
言葉が飲み込まれたのは、口がふさがっているから

Why…?

「んぅ!?」

唇?
くちびる…?
クチビル…? KUCHIBILU?

は…?キス!?

「んぅぅ…っ!?ちょ、タンマ!!」

リンの顔を無理やり引きはがす。

あ、タンマって久しぶりにきいた。
じゃなくて…!!

「ストップ!!まって、落ち着いて!!逃げないから!!」
私が落ち着けって…

「あ、あのね…何一つ、状況が見えてこないんだけど…」
キスって…私とリンが?

まっさか、そんなこと…あははははは…まさかぁ…

「せ、説明お願いしてもよろしいでございますでしょうか?」

もう一回…とか…まっさかぁ…
いったい私はなにを…まさかねぇ…

「まず、一つ目、なんでリンがここにいるのか。二つ目、メイ姉となんの関係があるのか。三つめ…この体勢とさっきのキ、キス…の説明をおねがいします」
「メイ姉が…ミク姉と寝たって…気付いたらここにいて、こうなってて…」
「は?メイ姉と私が…?寝た…?は…?」

What?Why?

「メイ姉がそう言ってた…それで、なんか…きづいたら…こう…」

もう、なんて言っていいのか分からなくなってだんまりを決め込むことにした。
どんな嘘ついてんだ…我が家の姉貴は…

「アタ…アタシは…ミク姉のことが…その…す、きで…でも、メイ姉が…メイ姉とミク姉、そういう関係に見えなくて…ミク姉はマスターが好きで…でもメイ姉とミク姉はそういう関係で…」

アタシも体だけでもいいから欲しかったの、とか細い声でつづけた。
体だけって…何をいっているんだ、この14歳は…
………
……



すきっていったか?

顔に、髪がかかってくすぐったいなぁとか、そんなことはどうでもいい。
私の耳は、確かにすきという単語を拾った。

私のマスターLove疑惑は置いといて…LoveじゃないLikeだと、声高々に宣言したいところだが、そんなことはあとでいい。
リン、最初に貴女が言ったすき、それは、Like?Love?

「な、なんか言ってよ…こ、告白したんだよ?…やっぱり、その…気持ち悪い…?」
「それは…Like?それともLove?」
「こんな状況でLikeなわけないじゃん」

気持ち悪いよねごめんね、といって彼女が体を引いた。
から、引きとめた。
「いやいやいや、気持ち悪いとか一言も言ってないし!!」
背中にまわした腕を強く引いて、リンの体をもとの位置に戻す。

そうかそうか
なんで今まで気付かなかったんだろう。
Likeだと思おうとするから違和感が残るんだ。
Loveなら何一つ問題はないじゃないか。

リンが好きなのはマスターだと思っていたけど、この際そんなことはどうでもいい。

「ノープロブレム」
「え?」

近くにいれば理由もなくドキドキするのも、触れたいと思うのも…
もう一度キスしたいと思うのも、Loveならなんの問題もないじゃないか。

「ねぇリン」
「なんでしょう…?」
「もう一回キスしようか」
「は、えぇ!?」

背中にまわしていた手を、頭にまわして顔を引き寄せる。
驚きに見開くリンの目がぼやけるほど近い。
ふわりと…そう、ふわりと唇がふれた。

幸せという言葉の概念はとてもあやふやだけど、今、確かに私は幸せを感じている。

唇を離してほほ笑んだ。
「ほら、ノープロブレムじゃん」






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