覗き見一名様ご案内でーす

リン視点

Speak low if you speak love.




よしよし、とまるで幼子をあやすような口調で彼女はアタシの頭を撫でた。
分かってる、アタシの行動はただのガキだ。
年齢だって、アタシとたった2つしか変わらないのに
なんでそんなに大人に見えるんだろう。

もっと、大人になりたいと思う。
メイコとかルカとか、そこまでいかなくても、せめて隣に並んで違和感がないくらい…
って、アタシはいったい何を考えているんだろう。

2段ベットの下。
上にいるレンは寝入っているようだ。
ベッドに入ってから何度目かわからない寝返りを打った。
時計を見ると、すでに日付が変わっている。
先ほどの寝返りが本日初の寝返りというわけだ。
ここ最近、いや、あの日から何となく寝付けない日々が続いている
毎晩毎晩、温かい布団の中でごろごろと寝返りを打ち続ける。

駄目だ、寝むれそうにない。
レンを起さないように、そっとベッドを抜け出す。
水でも飲もう。
かすかに明かりの洩れるリビング
音は一つも拾えない。しかし、確実に誰かがいる気配がした。
意図的に息を殺しているような…
線の細い影が見える。考えなくても分かる。
メイコだ。ソファの傍らに膝をついていた。
異様な雰囲気というわけではなかったが、どことなく声をかけにくい空気だった。
メイコらしき細い影の腕が、緩やかに動いている。
何かを撫でているようにも見える。

見てはいけない。このまま、ここにいてはいけない。
脳のどこかが、そう警告していた。
音をたてないように。意識しながら、そろそろと右足を後ろに引いていく。

背を向けてこっそり去ろうと思った時、確かにアタシは見てしまった。
影の頭部がゆっくりと降下していくところを。
ナニかに向かって、そっと体ごと傾けていくところを。

なぜもっと、早く立ち去らなかったのだろう。
アタシのいる位置からは、影に被ってそのナニかはみえないはずだった。
影がそのまま動かないでいてくれたのなら。

影の動きが止まった時、ソファにいるのがいったい誰なのか。
はっきりは見ていない。
でも…どんなにはっきりと見ていなくても、色彩ははっきりとアタシの目に届いていた。
きれいな薄いピンク色。桜色とか桃色とか、そんな類の。
影…メイコが何をしているのか、確定はできない。

でも、あの動きは…
アタシだってバカじゃない。

まわりにいくら鈍いといわれようと、それなりの感性も知識も持っている。
時間は長くなかった。
しかし、その短い時間に比例して、その場の空気はあまりにも濃い。

レンが起きてしまう、そんなことはとっくに頭から消えていた。
ベッドがダイブしやすい位置にあってよかった、と場違いなことを思いながら、掛け布団の上から飛び込んだ。
確実にアタシは見てはいけないものを目撃してしまった。

メイコと…ルカ
メイコと…ルカ…メイコと… 自分の思考がいったいどこに向かおうとしているのかに気がついて、布団の上で顔をしかめた。

もし…もし…
もし、アタシがメイコの立場だったら
もし、ソファに寝ているのがルカではなかったら
ルカではなかったら…?
だとしたら…もし、ソファに寝ているのが…ミクだったら…

アタシの思考はそこで止まった。


よしよしと言いながら、頭をなでる手を振りはらった。
子供のように扱われるのが我慢ならなかったから
アタシの手を取ろうとする彼女を振り切って、部屋に逃げた
彼女の優しが、あまりにもいたたまれなかったから

何より、理由もわからず跳ねる鼓動から、目を背けたかったから

こちらを見つめる深い色の瞳を、にらみ返した。
目の中に浮かぶ色が優しさだったから
アタシの名を呼ぶ声を振り切って部屋を飛び出した
彼女が、あまりにも楽しそうだったから

何より…何よりも彼女の事が…
ミクの事が好きだったから

だから、ミクの笑顔が向かう先はマスターじゃなくて、アタシなら良かったなんて思ってしまうんだ。
だから、リビングでキスしていたのがあの2人じゃなくて…
アタシとミクだったら良かったなんて、思ってしまうんだ。

彼女がアタシと同じ気持ちだったらなんて、ありえない妄想を…
だって、彼女が好きなのは、アタシじゃなくて…

結局はすべてifだって、アタシはいつになったら気がつくんだろう…






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