ルカのお話終わりー…


ルカメイと見せかけたルカミクのメイ→ルカ

卒業生のお話




あとで時間があったら彼女に会いに行こう。
なくても会いに行くけれど…
「私が必死になった理由、それは、その子のためでも誰のためでもありません。ほかでもない、自分のためでした。こんな私でも、純粋な瞳を向けてくれる、真っ白な心の彼女と同じ位置に立ちたかった…。」




私が初音家に乗り込んだあの日から、おっさんの女遊びは幕を閉じることとなった。
あの日の恐怖で勃たなくなった…ということらしい。
また女を連れ込むようなことがあれば、私が乗りこめばいいというワケか。


腕時計を確認ちらとみて、時間を確認する。
今の時間なら、まだ空いているはずだ。
自転車にまたがり近くのファーストフードへと向かう。


巡音ルカ、高校三年生…五、六年ぶりに受験生になった。
目標立てて勉強するのは、小学生以来だ。
高二の半ば、基礎中の基礎からはじめた。
五年間何やってきたんだ私…という後悔はいまだにある。


ミクが一度だけ、行きたい大学の名をポロリとこぼしたことがあった。
亡くなった母親の出身大学だという。
四大学のトップクラス校。
まるで別の惑星。

その時は適当にふぅんと流した。
私が、ミクならいけるよと励ましても、あまりに現実味がない気がした。

大学にあまり興味は無かったものの、あと半年もすれば自分も受験生になる。
ところで、私は大学に行けるのだろうか…?
春休みの間中考えた。

三学期、担任に、今からでも四大に行けるか、と聞いたら熱でもあるのかと返された。
失礼な……。
反論しようかと思ったら、先を越された。

「今からやれば、間に合わないこともないかもしれない…」
かもしれない…なんて曖昧な…
それでも、その言葉は希望だった。


ミクと会わないと決めた理由…そんなもの忘れた。
メイコ先輩みたいに、かっこつけたかっただけかもしれない。
合格して、真人間になるまで絶対に会わない。

ミクと、同じ位置に立ちたかった。
出来ることなら、彼女の目標でありたかった。
ミクのメグリネ先輩は…私の位置からみたメイコ先輩でありたかった。


片手で食べられるハンバーガーというのは、人類の中でかなり上位に入る発明品だと思う。
ファーストフードに来てまで勉強している巡音ルカ…いったい誰が想像しただろうか。
左手に食べ物を持って、右手で文字を綴る。
レポート提出…高校の時とは違う。
提出物やら遅刻やら…些細なことが誇らしかった。
小学生か私は…
最後の一口を飲み込んで、太りそうだなと思った。


人生で初めての嬉し泣きは、手の中の番号を壁の数字群の中に見つけた時であった。
嬉しくても泣けるんだと知った。
そして、その涙は当に数年ぶりの涙だった。

メイコ先輩のおめでとうがこんなに素直に聞けるとは思っていなかった。

ルカの合格した大学名聞いて卒倒するかと思った…
先輩はもっといいとこ行ってるじゃないですか…

何年たっても、やっぱり私にとってメイコ先輩は遠い世界の人だった。


ジーンズのポケットが振動する。
震える物体を取り出して確認すると、高三当時お世話になった担任の先生であった。

「はい、もしもし…」
「おぅ巡音。元気か?いま、ちょっといいか?」
「はい。大丈夫です」
「あのさお前、毎年恒例の『卒業生のお話』って覚えてるか?」
あのー…なんか体育館で集まって、卒業生が演説するやつ…

先生の声にはめんどくさそうな響きがあった。
聞いてる生徒なんていると思えないのに…なんで毎年やるんだろう…

「はい…覚えてます」
存在は覚えているが、内容は覚えていない。
一年の時も二年の時も、眠りこけて夢の中だった。

「あー…それなんだが…巡音、やってみる気ないか?」
「はぃ?いや、だって、アレもっといいとこ出てる人がやってませんでしたっけ?」

話は簡単だった。
評定平均2.7、不良として伝説まで作った女の子が四大学に合格。
そんなシンデレラストーリー。
「いやぁー…なんかね…新しい校長がお前と咲音に興味持ったらしくてさ。二人とも物凄い美人だって伝えられてるから、ただ会いたいだけなんだろうけど…」

今の私なら会えるだろうか…
今の私ならミクと同じように笑えるだろうか…
ミクは、怒ってるだろうか…

あっさり承諾すると、お前本当に巡音か…?
本当に、毎度失礼だ…


久々に戻ってきた校舎は、あまり変わりなくぼろいままだった。
二年前よりカビ臭さが増したように思う。
懐かしい制服の生徒たちに見つめられながら、一段一段しっかりと踏みしめていく。
マイクの前に立つと、まだ幼さの残る顔が一様にこちらを見上げていた。
学校に大した愛情なんて持っていなかったくせに、懐かしさと愛しさがこみあげてきて少し泣きそうになった。
一度だけ深呼吸をして礼。

正面からあたるライトを少しだけまぶしく感じながら口を開いた。

「みなさんは…」






翡翠の君

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