初めて、プロットつくってss書いてる
いつも、勢いで書いてるからなー…


ルカメイと見せかけたルカミクのメイ→ルカ

卒業生のお話




この話を受けた時、カンペはみないでやろうと決めた。
ぶっつけ本番。
どうせ、大半の生徒は寝ているだろうし…
「いまここにいるみなさんも、一度は「咲音メイコ」や私の伝説を耳にしたことがあると思います。たぶん、その中には真実ではないことも沢山あることと思います。実際私は、そんな暴力的な人間性は持っていなつもりですしね。ですが、暴れてはいなかったかわりに、私は何一つやってきませんでした。勉強はもちろん、人間関係の形成さえも…」




塾が早く終わった日は、いつも憂鬱だった。
家の中からかすかに聞こえる物音と悲鳴をなるべく聞かないように、ぎゅっと耳をふさいでしゃがみこむ。
強く強く耳を抑えても、時折聞こえてくる父親の罵声。
複数の男たちの、卑下た笑い声。

吐きそうだ。
気持ち悪い。
この場から、今すぐ逃げたかった。

母は優しかった。
私を庇うときは、いつだって体を張って助けてくれた。
襖の隙間からのぞく、悪夢のような光景を私はいったい何度見てきたのだろう。
実の母親が実の父親に、犯される悪夢。
泣き叫ぶ母親を殴りながら、ひたすら腰を振り続ける父親。
閉まりの悪い襖から見えた、僅か3センチメートルの世界。
それは、幼い私がみた、抜け出すことのできない地獄絵図であった。

塾に通わせるというのは、その場から私を逃がすための、母の最善策だったのだろう。
でも…娘が家にいない時間が増えた分、父の悪行はエスカレートしていった。
だが、進学するつもりのない私立の中高一貫校の受験に合格した年、父親は逮捕された。
覚せい剤や大麻、数々のドラッグ。
それは、私と母にとって初めての夜明けであった。

行きなさいと言った。
お金のことは気にしなくていいから、せっかく頑張ったんだからと。

成長することを見越して作られた、真新しい制服は少しだぼだぼで、それでもとても誇らしい輝きを放っていた。

同級生たちとなれ合うつもりは微塵もなかった。
無邪気な顔をして、彼らは私の痛いところを直に突いてきた。
だから、逃げだした。
顔を合わせるのは必要最低限だけいい。

父親が逮捕されてから、母親は夜の世界で働き始めた。
生活のため、私の学費のため、休みなしで働こうとした母親は、僅か2週間で体を壊した。
母の入院費も、私の学費も生活費も、助けてくれたのは父方の祖父母だった。
息子の残した爪後の、少しでも罪滅ぼしに…と。

体を悪くした母は、崩れるように壊れていった。
壊れた母は、それでも私の母親だった。


「貴女、友達いないでしょ」
第一声がそれだった。
中等部校舎の中庭に、着崩せるだけ着崩された高等部の制服を着たお姉さんがいた。
高校生だった。
キラキラとひかるピアスに見とれて、返事をするのを忘れた。

「綺麗な顔をしてるのね、貴女」

バッヂに記されているのは高校二年生のマーク。
たった四つしか変わらないのに、その人、咲音先輩はとても大人に見えた。

「苗字なんて読むの?…メグリネ?」

返事がないことを気にする様子もなく、彼女は喋り続けた。
「ふーん…ルカちゃんっていうんだ…名前も可愛いね」
さりげなく頬に触れた手が冷たくて、少しぞくっとした。
赤茶色の瞳は見たことのないくらい深い色をしていた。

「放課後ヒマ?だったら遊びに行かない?」
迷わずにうなずいた。

これが、私とメイコ先輩の出会いであった。

メイコ先輩は何も核心にせまることは聞かなかった。
ただ普通に接した。
同情するでも、優しくするでもなく。
ただ、普通に…

一度だけ…壊れた母を見るのが辛くて、一度だけメイコ先輩のもとへ泣きに行ったことがあった。
何も聞かず、ただ一言「あたしはここにいるから」といって抱きしめてくれた。
私をかばってくれた母を思い出すくらい、柔らかくてそして暖かかった。


私が中学二年生にあがったとき、メイコ先輩は高校三年生。
その頃にはすでに、高等部にまで私の名前は知れ渡っていた。
不真面目ではあったが、とくに何をした覚えはない。
咲音メイコという名前の力であった。
学年一、怒らせてはいけない人物。

噂だけ聞いたら怪物女だ。
それでもメイコ先輩が退学にならないのは成績がいい所為。
学校の成績どうこうではない、全国模試の成績が半端ないのである。
校長が手放したがらないのもうなづける。

咲音メイコを手なずけた女、巡音ルカ。
なんだそれ、と突っ込みたくなったが、誰に言えばいいのか分からなかったので諦めた。

中一のときは、私がまわりを避けていた。
中二になってからは、メイコ先輩の名前がまわりを遠ざけた。
中三でメイコ先輩が卒業すると、惰性で周りから人が消えた。

高校に進学してからは、蓄積された有名無実な伝説と、よくわからない何かで友人が出来なかった。
よくわからない何か…メイコ先輩はそれをポーカーフェイスと呼んだ。
それでもメイコ先輩は、ルカだって色々考えてるのにね、と苦笑いしていった。

私はメイコ先輩が勉強しているところを一切見たことがない。
だから春に、メイコ先輩の進学先を聞いて声をあげて驚いた。
人生で初めて、驚愕で声をあげた。

大学の名前なんてほとんど知らないが、六大の有名どころくらいは記憶にある。
冗談かと思った。
合格者名簿を見て熱が出るほど驚いて、メイコ先輩の失笑を買った。
いったい私をなんだと思っているの、と。
本当になんなんですか貴女は、と聞いたら大爆笑で返された。

もしかしたらあの熱は、メイコ先輩と離れることに対する拒絶反応だったのかもしれない。

まる二年一緒にいてはじめて、この人がどれだけ遠い世界の人か気付かされた。
その時になるまで、同じ位置にいたのではなく、メイコ先輩が私のところまで降りてきたのだということに気付かなかった。


こんな状況で、私の身長がメイコ先輩を越した、といういらない事実に気づく.。
出会った頃は、私がメイコ先輩を見上げていたのに。
並んだ赤と青を見て、神様の不公平さを恨んだ。






第三部

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