初の日本語タイトル

ボカロ学パロ計画始動!


ルカメイと見せかけたルカミクのメイ→ルカ

卒業生のお話




舞台の上から見知った顔を探す。
校舎は相変わらず古く、生徒の数は相変わらず多い。
知らない顔が一様にこちらを見つめている。
大半の人に用は無いのだ。
私の声は…約三年越しの言い訳は、彼女一人に届けばいい。
言いたいことを頭の中で構築しながら、マイクに向かって話しかけた。
「みなさんの評定平均は、現在どのくらいでしょうか。良い人は4点台、それより下の人もたくさんいることでしょう。ちなみに私は、高二まで2.7以上をとったことがありませんでした。」




何が楽しくて初めての男を、好きな人のカレシとして紹介されなければならないのだ。
何が楽しくて片思いの人を、四年前の元彼に持って行かれなければならないのだ。
無事に進級してから一週間。
まだまだ下駄箱の位置を間違えるような、四月某日。
失恋した。


中学一年、私が「不良」としての一歩を踏み出してから、しばらくしてのことである。
上履きの色は赤、ということは三年生。
さわやかな優男風の先輩。
階段の踊り場で呼びとめられた。
すごく自然に、まるで昨日の夜ごはん何食べた?と聞かれたのとおなじくらい自然に。

「ねぇ君、可愛いね。一目ぼれした。俺と付き合わない?」
と言われた。
すごく自然な調子でも、いや自然だったせいで、なぁ一緒に練炭自殺しないか?と言われたのとおなじくらいの衝撃があった。

「君、名前は?俺はカイト。三年A組。」
何も言えないまま、一方的な自己紹介。

「ふーん、まだ一年生なんだ。大人っぽいね。巡音ルカちゃんっていうんだ」

この人…カイト先輩に呼びとめられてから、私はまだ一度も口を開いていない。
学年は上履きの色で分かるし、名前はご丁寧にクラスバッヂにフルネームで記載されている。

「あ、なんで何も言ってないのに分かったかって?」
別に驚いてもいないし、そんな様子を面にだした覚えは微塵もないが、目の前のイケメンはご丁寧に全て説明してくれた。

「で、どうなの?俺と付き合う気ない?」
どこにですか?なんて聞くなよ。…なんの笑顔だ、それは、

入学から二週間、「咲音メイコ」という不良に気に入られた。
付属高校の二年生、数々の伝説を残す咲音メイコ。
あれよあれよという間に、「不良」の仲間入りを果たした。
入学早々咲音メイコの仲間になった一年生、巡音ルカ。
この名前を知らないものは、中等部の校舎で1パーセントに満たないのではないだろうか。

「先輩が、私でいいなら。」
「オーケー決まり。今から、ルカは俺の彼女ね」
これまた自然すぎて、ファーストネームで呼ばれていることに気づかず流すところだった。
別に、だからといってどうということもないのだが…

カイト先輩は優しかった。
誰へだてなく優しい彼はモテたし、先生の人望も厚かった。
でも、優等生というわけでもない。
不良と呼ばれる類の人たちとも仲が良い。
でも、その人たちの仲間というわけでもない。

一般事情にも悪い子事情にも詳しい、完全中立の立場に彼はいた。

その年の、夏休みが終わった時期。
私は「はじめて」を手放した。
なんの感慨もなく…たっだ、彼が私の初めてが欲しいと言ったから。
どうぞ、特にいらないし…そんなニュアンスだったように思う。
大した痛みもなかったが、少しだけ父親の事を思い出して不快だった。

仲は円満だった。
でも、当時の私は彼の事を「そういう好き」では無かったように思う。
彼が、どれだけ他の女に手を出しても嫉妬などしたことがなかった。
とりたてて責めたこともない。
我関せず。好きにすればスタイル

恋人になりきれなかった私は、カイト先輩が受験勉強を進めていることなんて知る由もなかった。
中高一貫校のため、相当な事がなければ無受験で、高校に進学できる。
合格証書を見せてくれた時彼は、「ここで妥協したら負けだと思ってね」と曖昧な笑顔で言った。

自然消滅という言葉がある。
別れを切り出すことなく、自然と恋人という束縛関係を解消すること。
初めから目に見えていたことだった。
想いのない恋人同士なんて、自ら破滅に向かうのみだ。
中二の夏休み、長期休暇にも関わらず、私と彼は一度だって会う約束を交わさなかった。

メイコ先輩は私より4つ年上の遠い世界の人だった。
大抵の人は「咲音メイコ」と聞いただけで敬遠してしまうものだが、メイコ先輩もカイト先輩とはまた違う人望を集めていた。
美人で頭がよくて…さばさばしていて行動力がある。
そして何より、一度友人と認めたものは、けして裏切らない。
素敵な人だ。

高校二年でありながら、暇さえあれば中等部の校舎に来ていた。

「だって、向こうの校舎ぼろいんだもの。地震とか来たら一発でぺしゃんこだよ」
ということらしかった。

確かに、高等部の校舎は建校以来工事が入ったことがほとんどなく、その割に中等部の校舎は二年前、全面工事が終わったばかりであった。
格差だ格差だとよくぼやいていた。

メイコ先輩はよく喋る人だった。
彼女と二人でいるときは、もっぱら私は聞き役に徹した。
メイコ先輩がルカは?と聞いたときだけ、少し話した。
正直に言ってしまえば、カイト先輩と二人でいる時間より、メイコ先輩といる時間のほうが圧倒的に長く、そして楽しかった。


カイト先輩とは、卒業してから連絡を取らなくなった。
それと違い、メイコ先輩は大学生になってもこまめに連絡をくれた。

不良の頭に立っていた女は、誰の手も借りずに六大学に現役合格していた。

私も気付いたら、高校二年生という学年になっていた。
定期テスト毎に、再考査をギリギリで切り抜ける。
提出物も出さないし、授業もサボりがち。
成績が良いはずもない。
二年生まで残れたことが、まず奇跡だ。

特に目立つことはしていないのだが、メイコ先輩と仲が良かったという理由だけで、知らぬうちに身に覚えのない伝説がたくさん生まれていった。
他校の男子生徒数人に囲まれて、一瞬で伸ばした…とか
パトカーを足で振り切ったとか…とか
私はライオンか…それともクマか…

そんな時であった、メイコ先輩から会わないか、という連絡が来たのは。
即行で承諾した。
会って、即座に後悔することをしらずに。

「カレシを紹介しようと思って」
カレシ?何それおいしいの?
魚の一種?
………
年下で、優しくて、かっこよくて、出身中学が同じ…と教えてくれた。
私が、口を開くのを待たずに、メイコ先輩は誰かを手招きした。
近づいてくるのは青い人。
爽やか系イケメン優男、その名も…

「…カイト先輩」
「あ…ルカ」

きょとんとしているメイコを傍目に、気まずい数秒間。
あーぁ、と思った。
初恋だったのかすら分からない。
それでも…持っていかれる相手が、よりによってこの人とは…

「なにー?知り合い?あ、そっか、中学一緒だもんねぇ。でも、カイトとルカって被っての一年だけじゃない?二人ともよく覚えてたね」
忘れるわけがない。
あれから何人かの男と寝て、その大半は忘れたが、初めての男はやはり忘れるわけがなかった。

一言もしゃべらない私をおいて、二人は仲よさげに話をすすめる。
よりによって、初めての男に…初めての恋を持って行かれるとは…
もぅやだ、と脳みそが考えることを拒否した。
心臓じゃない、もっと奥のほうにあるもの。
感情疑似器官から、見えない真っ黒な血がじくじくと流れ出す。

何が楽しくて初めての男を、好きな人のカレシとして紹介されなければならないのだ。
何が楽しくて片思いの人を、四年前の元彼に持って行かれなければならないのだ。
無事に進級してから一週間。
まだまだ下駄箱の位置を間違えるような、四月某日。
失恋した。

カイト先輩の懐かしい笑顔が、メイコ先輩の見たことのないような笑顔が、出来たばかりの傷口を抉る。
苦しくて、痛いと訴えることさえも出来ない

思考を拒否したはずの脳みそが、幸せそうな二人を見て言葉をつなぎ合わせた。
ふしあわせというのは、いっぺんにおとずれるものではなく、じょじょにつみかさなっていくものだ、だが、ふつうのにんげんは、それをしあわせというほうきで、はらいおとすことができる、でも、わたしは、わたしは…
私は、初めから「幸せという箒」すら持っていなかったのだ。






第二部

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