消失ネタ三部作その3

その3だけど、前作とのつながりはこれっぽっちもないんだぜ


でも今回はハッピーエンド…な、はず
神さまから妄想とネタを授かったので…
消失だからといって、全部が全部切ないわけじゃないんだぜ

ルカメイルカ
ルカメイルカです。大事なことなので2度いいましt(ry

きみがすきだ




柔らかな髪を手で梳いてみる。
ずっと、こうして触れてみたかった。
絡まないように、そっと、ゆっくり。
鼻の奥がツンとして、涙腺が緩む。
手の中の桃色の髪を、きゅっと手で握ってみる。
抵抗なくカタチを変えたそれに、私の涙が数滴しみ込んだ。

閉じられた瞼は開かない。
長いまつげは伏せられたまま。

ずっとずっと、傍にいられるものだと思っていた。
気がついたら、隣にいることが当たり前になっていて。
いくつもの過去を、共有してきたのに。

「ルカ」
名を呼べば
「メイコ!」
必ず応えてくれた。

笑いかければ、必ず微笑み返してくれる。
ふわりと、花のように笑うんだ。
ルカが私の日常で、私の常識だった。

苦い苦いって、コーヒーが飲めなくて
そんなに食べれないって言いながら、大喰らいで
お祭りとか、楽しいことが大好きで
朝が苦手で、几帳面で、笑いの沸点が低くて…どこまでもマイペース

初期不良って、どういうこと…?
ねぇ、マスター!泣いていないで答えてよ!
初めから不良品だったって…何それ、意味分かんない…
あんなに元気だったじゃない…どういうこと?
なんで、目あけないのよ…昨日まで、あんなに笑顔だったじゃない…
何の冗談よ…意味分かんない…
わかんないよっ…!

修理に出せば、また戻ってくるんだって。
また目をあけて、また笑うように、歌えるようになるんだって。
でも、私のことも、何もかも…忘れちゃうんだってさ、わけわかんない。
だって…だって、一緒に花火大会行こうねっていったのに…
ルカが…浴衣着つけてくれるって…いったのに…


「ルカ」
名を呼べば
「メイコさん」
必ず応えてくれる。
“メイコさん”だって、笑っちゃうよね。

いつだったっけ…二人で遊びに行ったとき。
ふざけて、”めーちゃん”と”るっちゃん”で呼び合って、二人して照れたっけ。
気恥ずかしくなって、結局すぐに元通りになったけど。

記憶を失くしたルカが家に戻ってきたとき、私とルカの関係性を説明できなくて”恋人”の一言でまとめてしまった。
帰ってきたルカがルカじゃないみたいで…無理して明るく「両想いだったんだよ!」とか言っちゃったきがする。
彼女は律義に、それを信じてるみたいだけど…

恋人っていうほど、ロマンス溢れる関係だったかな。
夫婦の方がよかったかな。そっちの方がしっくりくるな。
きっと、ルカだったら「私が夫で、メイコがお嫁さんね!」とかいって笑っただろうな…

「ねぇルカ、好きよ」
笑いかければ
「私も、好きですよ」
照れながら、微笑み返してくれる。
それでも、やっぱりちょっと切ない。

「ルカ、晩御飯何にしようか」
「メイコさんの…好きなもので」
修理前だったら、「ハンバーグー」とか「オムライスー」とか遠慮なしに注文付けてきたのに…
でも、話すときに、首をかしげるしぐさは変わってなくて、嬉しい。

「メイコさん?」
「あぁ、ゴメン。じゃあ、魚でも煮つけようか」
こくっと、ルカが頷いた。
可愛いな、ルカは。

「ねぇルカ」
「はい」
敬語は、抜けないんだね。
距離が遠いなと思って、彼女の隣に腰を下ろす。

不思議そうな顔をして、彼女が私の目を見つめる。
ルカの、目の色が好きなんだ。
冬の海みたいなんだけど、よく見ると夏の海の浅瀬のような、温かい色をしてる。
その綺麗な色ガラスを通して、ルカはいったいどんな世界をみているんだろう。

彼女が逃げないように、ルカの顔を両手ではさんだ。
ルカが戸惑って、軽く身じろぐ。
それでも、視線は外さない。
何を思ったんだろう。
私の手を解くと、今度はルカの手が私の顔をはさんだ。

相変わらず綺麗な顔。
好きだったのだ。
本当に…彼女ことが。
ルカは軽く、私に体重を乗せて、そのまま徐々に唇を落とす。
視界に入るのは、彼女の顔と桃色の海。
あぁ、キスするのか…

ふれるだけ、ただ、ふれるだけ。
好きだ、好きだ好きだ好きだ。
きみがすきだ。

私はやっぱり、ルカが好きだ。

「メイコってよんで」
「嫌です」
長いまつげが、微かにふるえる。
ルカが連れて行かれた日のことを、ちょっとだけ思いだした。
大丈夫、だいじょうぶ。
ルカはちゃんと、ここにいる。

「おねがい」
「絶対、嫌」

これは泣くなと思ったときには、彼女の瞳から溢れた雫が、私の頬を伝っていた。
彼女が何を考えているかわからない…
わかんないよ…

静かに涙をこぼしながら、ルカが私の胸に触れる。
左の…心臓の上。
なんで、泣くの…なんで、キスするの
「ぜったいに…いや」

ルカが私の手を掴むと、彼女の胸まで持っていく。
ふれたのは、左の心臓の上。
とくとくと流れるリズムは、彼女が生きてる証。
随分とはやい鼓動が、私の掌をうつ。

「メイコさんが好きなのは私じゃないのに」
何を言ってるのこの子は。
「私はメイコさんが好きなのに」
それは、私が言ったことをそのまま信じ込んでるだけでしょ。
今のルカこそ、私のこと好きなわけないのに。

「私だって、ルカのこと好きよ」
「嘘」
嘘なわけないのに。
私がルカのこと、好きじゃないわけないのに。
ずっとずっと、好きだったんだから。

はたはたと、彼女の涙が私の頬に降り注そぐ。
泣き虫なのは相変わらず。
ねぇルカ、何を考えているの。

もう一度、私を好きになってほしいなんて言わないから…
今の貴女が、考えてることを聞かせてほしい。

「ルカ」
「勘違いしそうになるから…そんなふうに呼ばないでください」
止まることを知らない涙を、私の掌でぬぐう。
「好きよ、ルカ」

「貴女が好きなのは私じゃないっ…!」

あぁ、涙で湿った声を聞くのも…
ルカが、こうやって感情を表に出すのも…

涙に濡れた瞳が私を見据える。
けんかしたときも、びーびー泣きながら…そのくせ、絶対に視線をそらさなかった。
「貴女が好きなのは、記憶があったときの私で…今の私じゃない…」
記憶があったときのルカと…今のルカ…

「記憶がなければ駄目ですか…想い出がなければ、貴女に愛されることは出来ないんですか…!」
私が好きなのは貴女なのに…。

そう言って、ルカはまた泣いた。
ぐっと歯を食いしばる様子は、昔となんら変わりなくて…
その、濡れた蒼い瞳にふれたくなった。

「貴女が好きだからキスしたいし…キスすればドキドキだってするんです」
左胸におかれた手の意味。
とくとくと響く、いつもよりはやい鼓動の意味。

「私は私です…記憶がなくても…っ、私は…!」
今更だった。
気付くのが遅すぎる。
バカは私だ…最初から最後まで、自分のことしか考えてないじゃないか。

「私は…っ…メイコさんが好き、っです…っ」

ずっと、私をみてって…ルカは言ってたんだ。
いまのルカを愛してって…

「貴女に吹き込まれたから…好きだって言ってるんじゃ…ないっ…です」
「ごめん…ごめんね…」
「私はっ…!」
もういいよ、そう言って泣きじゃくる彼女を抱きしめた。
その身体は、変わらず温かくて。
ルカはやっぱりルカだった。

「貴女がみてるのは記憶があったときの私で…貴女はっ…」
「もういい…もういいから」

自信がなかったんだ。
もう一度、彼女に好きになってもらう自信が…
もう一度。ルカに愛される自信が…

きみがすきだ。
それでも、やっぱり、きみがすきだ。

ルカに愛されてるなら、もう何でもいい。
晩御飯のことなんて、もう知らない。

だって、ここにルカがいるんだもの。
胸をはって、好きだっていえるなら…



それでいい。






[SIDE:MEIKO]

家具通販のロウヤ