花占いでもし、嫌いで終わってしまったら…

「好き…嫌い…好き………嫌い」

………ブチッ
「好き!」

残った部分を、ブチってやってた中学生の頃のわたしであった

ルカ視点

Come,lady,die to live




「嫌いです、あなたが…」

やっとのことで出た言葉は否定だった。
神聖な空間を一瞬にして暗いものにしたのは、私の言葉だった。

必死に寄せた眉根は、涙がこぼれそうになるのを堪えるため。
力いっぱい掴んだシャツの裾は、あふれ出そうになる感情を抑えるため。

それでも目だけは逸らしてはいけない気がした。

目をそらしたら負けな気がした。

「あなたが嫌いだからです」

彼女の手が私の前髪をそっとかきあげた。


「うーん…無音…?うん、無音が聞きたかったから」
私の体をソファに引き上げた彼女はそう言った。
確かに彼女は無音を「聞く」と言った。

驚いた。
驚きすぎて、逆にメイコを驚かせるくらい驚いた。
彼女が、真夜中のリビングにいたことも驚きだが、その理由を聞いて一瞬言葉が出なかった。
私と同じ理由で、彼女もここを訪れていた。

私と同じ人がいるというだけでも何となく奇跡なのに、それがメイコだなんて…
嬉しかった。
2週間勝手に避け続けたのに…嬉しいなんて、自分勝手にもほどがある。

「メイコさんも私と同じですね」
そう言うと、彼女はまた少し驚いた顔をして笑った。

「ねぇルカ…」
メイコの顔がすっと引き締まって真剣な顔になる。
あぁ、こんな顔もするんだ…。
「あのさ…ルカ、最近私のこと避けてない?」
静かな部屋に彼女の声が響く。

「最初は勘違いかと思ったんだけど…さすがに2週間も続けば勘違いで済ませるわけにもいかないし。理由があるなら教えてほしいんだけど…」

思わず首を振った。
もう、それ以上続けないでほしかった。
その先は聞きたくなかった。

「もし、私に直すところがあるなら、改善できるように努力するからさ。ね?」
ね?と私の顔を覗き込むメイコの顔は今までに見たことがないくらい優しかった。

「分かりませんか…?」
迫力ないなぁ私の声と、他人事のように思う。
「あなたのことが…あなたのことが…」

優しすぎるメイコの視線が痛い。
駄目だ、泣きそう…

この世には言っていいことといけないことがある。
誰かを傷つけるとか、変えてはいけないものを変えてしまうとか…
これ以上ここにいたら、私は言ってはいけないことを言ってしまう。
胸が痛くて、口を開いても言葉が出てこない。

「嫌いです、あなたが…」

やっとのことで出た言葉は否定だった。
神聖な空間を一瞬にして暗いものにしたのは、私の言葉だった。
力いっぱい掴んだシャツの裾は、あふれ出そうになる感情を抑えるため。

それでも目だけは逸らしてはいけない気がした。
目をそらしたら負けな気がした。

「あなたが嫌いだからです」
彼女の手が私の前髪をそっとかきあげた。

私の目をまっすぐに見返しながら、彼女が少し、笑った。
「そんな顔して嫌いとか言われても説得力無いんだけど…」
まず迫力に欠ける、とまた笑った。

私の前髪をかきあげた彼女の手は、そのまま髪を滑って頬に触れた。
細くて長い、女性らしい指が私の耳をすっと撫でる。
触れられているところが熱い。

「嫌いです、あなたなんか…」
熱い。
近い。
「嫌いです…嫌い嫌い嫌い…嫌い…です」
私の口は、嫌い嫌いと意味をなさない言葉を垂れ流す。
メイコの手はそのまま。

「私のこと、そんなに嫌い?」
首をかしげた彼女に、傷ついた様子は特に見受けられなかった。
その代わり…優しい瞳の中に少し意地悪な色が窺えた。

「そんなに嫌いなら、私の手振り払えばいいじゃない。触られてるのいやじゃないの?」
「メイコなんて嫌いです…」

私に…彼女の手を振り払う余裕なんてあるわけがないのに
返事にならない言葉を繰り返す。

「嫌い、嫌いです」
「私は…」
私に触れるメイコの手がためらうように揺れた。
赤茶の瞳の中に見える悲しみ…悲しみ?

「私は、ルカが好きよ」

あれほどまでに熱が上がっていたというのに…すっと、あまりにもあっけなく離れていくメイコの掌。
聞きとれたはずなのに、何一つ聞きとれなかった。
メイコが、また私に勘違いさせようとしている。
好きだなんて…嘘が下手すぎる
メイコの好きなんて、ミクやリン、マスターへの好きとどう違うというのだ。

もう一度、嫌いと言おうとして口を開くと、こぼれたのは言葉でも音でもなかった。
鼻の奥がつんとしたかと思うと、メイコの顔がぼやけて輪郭があいまいになった。

「うそ…そんな嘘…嘘…」
「嘘じゃない。私はルカが好きよ」

離れていったはずの彼女手が、また私の頬に舞い戻って涙をぬぐった。
「ルカに会いたくて夜中に待ち伏せするくらい、寝ている無防備なルカに勝手にキスするくらい、好き」
頬に触れていた手が、肩に置かれ背中にまわる。

そのまま引き寄せられ耳元で、ルカは?とつぶやいた。

握りしめていたシャツを離す。

「嫌いです、嫌い嫌い…嫌い…だけど、好きです。」

うまく動かない手を開いて、今度は彼女のシャツを掴んだ。
ふっと嬉しそうに笑う彼女の声が聞こえた。

「やっぱり、嫌いです…」
「私は好きよ」

無意識に、彼女から離れようと身を引いていく。
それを食い止めるように、またメイコの腕が強く私の体を引き寄せる。

引き寄せる手が緩み、気がつくとメイコの顔が目の前にあった。
彼女の手は私の肩、私の手はまだ彼女のシャツを握りしめていた。
「好きよ」
一言つぶやくと、メイコの唇が私の唇に触れた。
彼女の端正な顔がぼやける。
悔しかった。
まるで、メイコにやり込められたようで。

最初のキスより長くて熱くて、それでいて前よりも、メイコがずっとずっと近くにいた。
「私の好きは、こういう好きよ」
唇を離したメイコが、目を細めてそう言った。
高鳴る心臓がうるさくて、悔しくて…

それでも、敵わなくてもいいと、思った。







NEXT

家具通販のロウヤ