毎晩、メイルカ需要が増えるようにお祈りして寝る。嘘。

メイコ視点

Come,lady,die to live




嫌いです、あなたがと面と向かって言われた。
せっかくの可愛い顔をくしゃっとゆがめて、泣いてるわけでもないのに目が赤く充血していた。
まるで、寒さを堪えるようにシャツの裾を握りしめている。
美人は、顔をしかめても美人なままだ。
整った顔は怒っても泣いても、崩れることがない。
私の目をまっすぐ見つめてもう一度、あなたが嫌いだからですと繰り返した。


避けられていると感じたのはあの日の夕方からか。
同じ空間に滞留するのを避けるように、気付くと目の前から消えている。
必要最低限の事だけ言葉を交わして、さっさと自室に戻っていく後ろ姿を何度見たことか

一週間ローテーションの家事当番、彼女との距離を感じるようになってから二回目…ルカの当番である。
きれいに洗われた食器たちが、丁寧に積まれている。

すごい量だな…

さすが、7人もいるだけの事はある。
日付はとうに越している。

2週間というのは短いようで案外長い。
たとえば…2人の少女が、じれったいまでに、大切に温めた可愛らしい恋を成就させるくらいは…
情緒の落ち着きが悪かったリンも最近はめっぽう大人しくなったし、その原因であったミクも年相応に可愛くなった。
やはり、恋する乙女はいいものだ。


今日に限っていやに眠たい。
大切な決行の日なのに…瞼が自然と下降してくるのを感じる
暗いリビングで、ソファに腰掛けているとなんだか聞こえないはずのメロディが聞こえてくるようで心地よい。

この場はただひたすらに無音という空気が流れているだけなのに。
それとも、無音という名の、しられざるメロディか
自室に一人でいるときとは違う無音。

同じ無音なのに、何がこんなに違うのだろう…
日中うるさいだけに…か

必ず現れるであろう彼女を待ちながら、思わずうとうとしてしまった私は何も悪くない。
実際に現れて、私の存在に驚き思わず腰を抜かしてしまった彼女も何も悪くない。

驚きのあまり見開かれている瞳は無視して、細い体をソファに引き上げる。
軽い。何だこれ。

眼の前の蒼い瞳はいまだに私を見つめている.。

「あの、えっと…なぜ…?」 無音だった空間に新たな音が紡ぎだされる。
日付が変わってから初めて聞いた人の声は、小さくて少しかすれていた。

「うーん…無音…?うん、無音が聞きたかったから」

さすがに、ルカと話がしたかったからなどと率直に言うのは戸惑われて咄嗟に嘘をついた。
口からでた出まかせは、先ほどまで考えていた事。
無音を聞くというのは少し無理があっただろうか。
まあいいかと思い直し、ルカは?と逆に尋ねてみる。

そんなに驚くようなことを言っただろうか…
私を見つめる蒼色が示すのは驚きの色。

「無音ですか…?」
「はい、無音です」

つられて敬語になってしまった。
「私も…無音を聞きにきました」
…?

「誰もいないリビングの、無音が好きなんです。」
ほら見ろ、とわけのわからない勝利感。
まるで以心伝心、私とルカは惹かれあう運命なのだ、わけのわからない勝利感。

「無音…静けさというより無音だよね。自室とは違う空気というか…」
「はい。自分の部屋では駄目なんです。ここじゃないと」
「リビングは昼間にぎやかなところだからね」
はい、メイコさんも私と同じですね、とはにかむように笑った。

なんだこれ、こんなの知らない。
こんな変な心臓の動きなんて知らない。
なんというのだろう、水落あたりが苦しい。
左手が無意識に胸元を抑えているのに気がついて、当初の目的を思い出す。

わけも分からず好きな人に避けられるのは不快だ。
避けられている理由を聞きだして、あわよくば彼女を自分のものにしてしまおうと…
あまり、邪な事を考えていると、うまくいくことも失敗しそうだと思って彼女のほうに向きなおる。

「ねぇルカ…」
呼びかけられたルカは、いままでに見たこともないような優雅なしぐさで首をかしげた。

「あのさ…ルカ、最近私のこと避けてない?」
一瞬にして、きれいな蒼色が曇った。

「最初は勘違いかと思ったんだけど…さすがに2週間も続けば勘違いで済ませるわけにもいかないし。理由があるなら教えてほしいんだけど…」

顔を伏せたまま、彼女が首を振る。
これは、どのような意味が含まれるのだろう。
避けてない?言いたくない?否定? 「もし、私に直すところがあるなら、改善できるように努力するからさ。ね?」

もう一度、ね?といって彼女の顔を覗き込もうとすると、結構な勢いでルカが面をあげた。

「分かりませんか…?」

蚊の鳴くような…というのはこのくらいの音量を言うのだろうか
声は聞きとるのが困難なほど小さいくせに、私を見つめる視線は驚くほど強かった。

「あなたのことが…あなたのことが…」

怒っているような表情は徐々に泣き出しそうな表情へと変わっていく。
季節のように移り変わる彼女の表情は、不謹慎にも見ていて楽しいものだった。
喜怒哀楽の怒と哀と楽はみた。
ならば、残り一つの喜も見てみたいと思うのは悪いことではないはずだ。

喜びで輝くルカの表情を見たいと思うのは…好きな人の表情全てを見たいと思うのは悪いことだろうか。
今にも涙がこぼれおちそうな彼女に向かって手をのばした。







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