わたしも、深キョンに「バカ」っていわれたい…

ルカ視点

Come,lady,die to live




私のヨーグルトがない。
昨日から楽しみにしていたのに…
意地でも食卓のほうは見ない。
双子のどちらかが既に食べてしまっている可能性が高い。
そうであったら、ショックを隠しきれない。

だから、意地でも食卓は見ない。

洗面所からカイトを呼ぶ声がする。
呼ぶというより、むしろ怒鳴り声。

聞こえないフリ聞こえないフリ…
少し無理がある気もするが、気にしたら負けだ。

ヨーグルトに固執する理由。
確かに楽しみにしていた。
でも、なければないで別に困るわけでもない。

現実逃避だ。
きっと、そうでもしなければパニックで発狂してしまう。

だって…だって……

夢だと思おう、昨夜無理やり自分に言い聞かせて眠った。
ただ、その嘘の薬効は一晩しか持たず…。
目が覚めてみると、唇に残る熱も感触も鮮明に覚えていて…

昨夜の事を思い出して、思わず手の中の卵を握りつぶしそうになった。

ヨーグルト探しに専念しよう…

「うひゃぅ!!」
危なかった…もし、さっきの卵が今も手の中にあったら、確実に悲惨なことになっていた。
ふっと息を吹きかけられた耳をごしごしとこする

犯人は分かっている。
こんなことをしてくるのなんて、この家に一人しかいない。

「あ、朝の挨拶がそれではあんまりではないですか…?」

振りかえると、肩にタオルを掛けたメイコがゲラゲラと笑っていた。
うひゃぅだってかぁわいー…とかなんとか言いながら…

私ばっかり動揺して馬鹿みたいだ。
こんな時でなかったら、私だって動揺なんてしたりしない。

もう一度抗議しようと口を開くと、彼女はかわすように食卓の席についた
なんで、私がドキドキなんてしなければいけないのだ。
当の本人は、まるで何もなかったかのような顔をして納豆を混ぜているというのに…
原因不明なこの動機も、意味不明な耳の熱も、全部全部メイコのせいだ。

メイコがあんなことするから、メイコがずるいからだ。

長時間開け放たれた冷蔵庫がピーピーと音を立てる。
ヨーグルトを諦めて、早く閉めろと主張する冷蔵庫を静める。
昨夜から、私の思考はメイコだらけではないか。
何かあるたびにメイコメイコ…
その事実に気がついて不快な気持になった

これではまるで、私がメイコに恋をしているみたいだ。
一回のキスくらいで意識するほど、私は初な小娘ではないはず。
思考のループにはまりかけて、危うく冷蔵庫の前で座り込んでいるのを忘れるところだった

意を決して腰を上げる。

「おはよう、ミク。あ、そうだリン。あんた、分かり安すぎるわよ」
「え、え?ま、まってメイ姉!」
私が腰を上げるのと同時に、メイコとリンが連れだってリビングを出る。

なんだ、そうだった。
昨夜の事があったから、すっかり忘れていた。
彼女は…メイコは誰にだってそうなのだ。
誰を相手にしたって、猫みたいにふらふらすりすり。

メイコは、もしかしたら私の事が好きなのかもしれないなんて…
私は、メイコの事が好きかもしれないなんて…
メイコの事が好きだなんて…

私ばっかり…ホント馬鹿みたいだ







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