メイルカ

メイルカ!メイルカ!

Come,lady,die to live




“よろしくお願いします、みなさま”
と、いやに馬鹿丁寧な口調で彼女はそう言った。

協調性0

質問をすれば丁寧に答える。
敬語で。彼女が我が家に来てから、一度だって砕けることのない彼女の口調。

「ねぇ……ねぇ」

大量のお茶碗を処理する彼女の背中を見つめる。
家事、似合わないなぁなんて思いながら。
ザーと水を流す音が響く。

「ねぇー…ねぇってば!!」

少し声を荒げても、彼女は振り向かない。
変な意地でも張っているのだろうか
別に、とくに用があるわけでもないけれど、どうしても彼女が振り向く姿を見たい。
ムキになっているのは私のほうか…

ソファから身を起して彼女に近づく。
ただひたすら、ザーという水音だけが耳に届く。
一定のようで一定でない、なんと耳に心地よいメロディだろう。
すっと腕をのばして彼女の腰を抱く。

「ねぇルカってば」
「うひゃぁ!!わ、私ですか!?」

ルカの体は触れるとビクゥと跳ねる。
そのまま身を捩って、私の腕からするりと逃げた。

「な、なにかご用でしょうか?」

呼ばれていたのは自分じゃないと思い込んでいたようだ。
警戒心むき出しのくせに、見せる背中は無防備だ。

「猫みたい」
「…はぃ?」

可愛い。ミクやリンは彼女の事を美人だという。
間違ってはいないだろう。
シミ一つない肌も、高めの鼻も、薄めの唇も、深い蒼色をしたその瞳も。
むしろ冷たささえ感じさせる美人だ
でも…

「可愛い」
と、私は思う。

「あの、ご用件は…?」

美人だと謳われ、大人の女性と扱われる。
じっとルカの顔を見つめる。
じわじわと赤くなっていく彼女の顔には、やはりまだ少し幼さが残る

「夜ごはん、シチューにしよう」
必死で身をそらす彼女が少しかわいそうになって、口から出まかせをポロリとこぼした。
「はぁ…」
こくりと小さくうなずいた。


彼女が家に来てから数カ月が経過する
その当初に比べたら大きな進歩だ。

彼女はまるで猫のようだ。
好奇心と警戒心がないまぜになったような、それでいて孤高のプライドを保つ。
手を差し出すと鼻だけ近づけて、腰は引けている。
気にはなるのだろう。
鼻先だけを必死に手に近付けて匂いを嗅ごうとする。
目測を誤って鼻先が指に触れてしまうと、瞬間身を引く。

あぁ、可愛いなぁ。







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