log




マスターの実家からミカンが箱で送られてきた。
ミカンは腐りやすいから早く食べてしまわないと。

机の端に山になっていく皮は見ないふり、見ないふり。
ミカンの皮は、きっちり五回で剥くべし。
丁寧に、丁寧に実を傷つけないように…

かさり、と心地よい紙をめくる音。
狭い部屋の中で、隣にいるのはアタシなのに。
いや…アタシが勝手におしかけただけなんだけど…
隣のアタシには目もくれず、黙々と譜読みを続けるミク。

真剣に楽譜を見つめるミクはいつもよりかっこいい。
普段は、慌てるとwhat?とか言い出す癖に…
よくわからないエセ英語喋る癖に…
発音だって、思いっきりカタカナの癖に…
そんなのを好きになったのはだれだ…アタシだ。

ミクの楽譜になりたい、とか恥ずかしいことを考えている自分に気がついて穴に入りたくなった。
だって…アタシ…
だってアタシ、まだ一度もミクから好きって言ってもらったことない。

これじゃ、まるで一方通行じゃないか。
一人でから回ってるだけじゃないか。
それに気付いて、悲しくなった。
「ミク姉、ミカン食べる?」
しまった、声が震えてる。
「ううん。あとでいい。…ありがと」
ミクは、アタシをみない。
小さなありがとうだけで、嬉しくなってしまうアタシが嫌だった。

もう嫌だ。
アタシばっかり好きみたいで…
アタシはこんなに好きなのに…
ミクの顔が見れなくなって、立ち上がる。
「あの…えっと…皮、捨ててくるね」
つみあがった山を抱えようと、少しかがむ。
裾あたりに小さな抵抗を感じた。
振り向くと、裾を掴む白い手。
持ち主の視線は紙の上。

「あとで、まとめて捨てればいいよ」
顔を見ずに、アタシが先ほど座っていた場所をポンポンと叩く。

………
まだ自分の体温の残る場所で、膝を抱えた。
「すぐ終わるから」
後頭部を優しく撫でられる。
体温が上がりすぎて、机の木目がぐらぐらと揺れる錯覚。


頭部にのぼっていく血液が恥ずかしくて膝の間に顔をうずめた。






家具通販のロウヤ