メイミクおいしいです




酔ったフリして後ろから抱きついてみた。
びくんと跳ねる肩があまりにも薄くて、力を入れたら折れてしまうんじゃないかと少し心配になった。
普段は高い位置でツインテールにしている髪は、おろすと思っているよりずっと長さを増す。
豊かな髪に鼻をうずめて息を深く吸い込むと、まるでミツバチを誘う花のような甘い香りがした。

好きなんだ、すごく。
すごくすごく、好き。
抑えきれないほどの好きが、全身から溢れ出て体が溶けてしまいそう。
抱きしめる腕に力をこめると、痛かったのか苦しかったのか小さな声で少し呻いた。
好きで好きで、すごく好きで。

怖い。
誰かを好きになることが、こんなに怖いことだなんて今まで知らなかった。
あまりにも好きで、心がぎしぎしと軋む。
怖い。
彼女がいなくなったら、私、きっともう生きてさえいけない。

私からあふれ出した好きが、彼女の綺麗なところを侵していく。
いっそのこと、全て溶けだしてしまえば楽になれるのに。
貴女だって、重たい愛から解放されて楽になれるのにね。

私の腕を無理やり解いたミクが、くるりと反転して向き直る。
「どしたの…?めーこ?」
ミクの両手で包まれた頬が温かい。
好き好き好き好き好き好き好き好きすき
「…すき」
腰を引き寄せて、またぎゅっと抱きしめる。
どこもかしこも、折れそうなほど細い。
風が吹いただけで折れそうな、一輪の花のよう。

「ミク…」
「なぁに」
「ミク」
「どしたの?」
「ミク…ミク」
「うん…」
呼べば応えてくれるところに彼女はいる。

まわりなんてどうでもよくなるくらい。
私の背にまわされた腕がぎゅっと存在感を増す。
肩にミクの頭の重さを感じる。
「…だいすき」
小さく呟かれた言葉が、全ての罪を許す。

こんなに好きになるなんて思ってもみなかった。
こんなに苦しいなんて誰も教えてくれなかった。
ただ好きでいるだけなのに、それが罪になるなんて知らなかった。

痛みや苦しみや恐怖や歓喜。
全てを通り越して、その愛情に涙が出た。
背徳なんて、罪なんて…
私の瞳から溢れた好きが、長い髪に染みていく。
彼女の首元は、花よりも強い甘いにおいがした。

溺れてしまいそう、と思った。
違う、もう溺れてしまったんだ。
何も知らずに踏み込んだ先は罪悪で塗り固められ、私ひとりの力では崩すこともできない。
もう引き返せないところまできてやっと全てを悟った。

それでもいいと思った。
「私も、めいこがすき」
抱きしめ返してくれる腕が、だってまだそこにあるんだもの。
蜜の香りに誘われた、ミツバチのように

私は、華に溺れる…






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