お話というほどのものでもない

いわゆる…




「もーいーくつ寝ーるーとー」
扇風機の風がサラサラの金髪をなびかせる。
羽の回転は彼女の声を宇宙人ボイスにしてここまで届けても、溢れた汗を引かせるような風は届けてくれない。
「なーつーやーすーみー」
「…あと一ヶ月半…そしてリン、その音程はボーカロイドとしてどうかと思うぞ」
的確な指摘有難う…でもレンくん…
「あと…そこから1メートル離れるんだリン」
それだ、指摘するならまずそれだ。

風が届かない理由。

扇風機は何ひとつ悪くない。
声をヘロヘロと震わせるのも別に好きでやっている訳ではないはずである。
君は何も悪くない。

「だってー」
「だってじゃない」
「暑いんだもーん」
今、確実に…
「感じている体感温度は俺たちのほうが高いはずだがどうだろう」
代弁有難うレンくん。
部屋の空気を回す風をせき止めているのは君だよリンちゃん…。

「いや、そっちじゃなくてね」
あたしは神だからココにいても許されるの…
ナンダト…いつから我が家の末っ子は最高権力者になったのだ…

「アツ苦しいのはアッチ」
ネイルカラーが剥げかけた人差し指が示すモノ。
「あぁ…ナルホド」
…バカップルですねわかります
梅雨前のこの時期にしては異常に暑い今日の気温。

「ルカは髪あげてても可愛いねー」
「そ、そうですか…?メイコだって充分…か、かわいぃ…です」
「ふふアリガト。でも、断然ルカのほうが可愛いよ…ふふ」
「ふふふ」

……。
「…あちぃ」
同感。

「あ、ルカ!!やっぱり首出しちゃダメ!!」
「…?あ…///」
「ね…?」

……。
今なんか…首筋に流れるものを感じた。

「ねぇルカ…」
「はぃ」
「部屋…いこっか…」
「…はぃ」

………。
「…あぢぃ!!」
同感。
この時期にしては異常に暑い今日、きっとあの二人がプラス4度くらい貢献してるに違いない。

ほんの一瞬だけ、ふわっとぬるい風を感じた。
かと思うと、先程まで扇風機の前にいた黄色い影が、今度は目の前を遮った。
視界一杯に黄色いカミサマの笑顔。
傍若無人な可愛いさですねわかります。
.
「ミク姉も!!部屋いくよ!!」
少し小さめの手がむき出しの腕を掴んだ。
重力に逆らってぐぃっと持ち上げられた腕。
リンの手は温度差をしっかりと感じ取れるくらい熱かった。
「クーラー着けてから30分たったから涼しいよ?ね?」
クーラーという一言に負けたんじゃない。
傍若無人なカミサマの可愛いさに負けたんだ。
ふらふらと部屋に向かう途中、扇風機と共に残された金髪少年の呟きが聞こえた。

「…ぬるい…」

我が家の温暖化ですねわかります。






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