恋っていうのは、下ごころだからねー…仕方ないよ、うん


リン→ルカ→ミク→リン

Everyone can master a grief but he that has it.




[Pert.Miku]

負けたと思った。
彼女の歌声は、私の世界がひっくり変えるくらい、力強くて…そして美しかった。
私の惨敗だった。

私が築いてきた立ち位置は、この金髪の二人組によって崩れてしまうのだろうか…
私の努力は、才能の壁を目の前にして意味をなすものなのだろうか。
そんなことを思ってしまった時点で、私の負けは確定していた。

惨敗だった。

最初私が抱いていたのは、敵対意識。
いや、私の居場所がなくなることへの恐怖だった。
彼女の歌声に、マスターの贈る称賛の声に私は嫉妬した。

彼女の才能に対して、何一つ叶うことがなかったこの声に、私は怒りさえ覚えた。
悔しくて悔しくて沢山泣いた。
それでも、結局のところ私には歌しかなかった。

歌うために、生まれてきたのだ。
やっぱり、最後に私を救うのは、私を苦しめる歌。

だから、全ての悔しさをぶつけるように、全身全霊かけて歌った。
はちゃめちゃだった。
歌い手として禁忌である「喉を潰す」ということをやってのけるくらい…

なのに、それなのに、マスターは私をほめた。
うわべだけの言葉じゃない、称賛の言葉を私にくれた。

私がぶつけたのは、リンに対する負の感情だったはずなのに…
「やっぱりミクちゃんってすごいねぇ」
ころころと笑う彼女は、私が思っていたよりずっと、小さな少女だった。

憎さあまって可愛さ百倍…
私の中で、リンの歌声は疎ましいものから、愛しいものへと変化していった。
気付かぬうちに、私は彼女に恋をしていた。


本当は、ルカが泣いていようとどうでもよかった。
でも…
気付かないわけがない。

リンがルカのこと好きだって。

ずっとずっと前から、私はリンしか見てないのに…
そんな私が、気付かないわけないじゃない。

好きな人が泣いていたら、私も悲しい。
リンの頬に涙なんて似合わない。
だから、慰めただけだ。

ルカが泣いていたら、きっとリンが悲しむ。

でもその時、私はルカの瞳の中に想いの変化を見つけた。
私は最低だ。
その好意を逆手にとって、私は彼女を傷つけようとしている…

私が長い間かけて、いまだ手に入れられないものを、ルカは一瞬にしてものにした。

私のリンなのに…
どうやったって、私はリンのもとに上がれそうにない。
なら、リンが私のもとに降りてくればいい…


最初は、そんなつもりはなかった。
リンのためだけに、ルカを慰めていた。
でも、そのうち私自身のために、ルカに優しくするようになった。

簡単だった、ルカが私のところに落ちてくるのは…
ルカはあっさりと、私に惚れた。
自惚れじゃない、かけてもいい。

私はリンのところへ上がれない。
でも、リンはルカに惚れている…なら、ルカは私に惚れればいい。

リンのことなんて眼中になくなるくらい、私の事を好きになればいい。

それで、ルカもリンも傷つくなら傷つけばいいのだ。
今だってこんなに痛いのに…
私は…私はこんなにも貴女を愛しているのに、貴女は私のほうを見ることだってしないじゃない。

こんなにも愛しているのに…


ガラスの向こうにいるリンが、ウィンクを送ってくる。
とっくに気付いてる。
ルカの歌声に艶が出たことなんて…だって、それが目的だもの。

リンは鈍い子じゃない
そろそろ、気付いてもいい頃だ。

貴女のみているひとは、私をみていることに…


ねぇ、傷ついた?
それでもいい、私が癒してあげるから…だから、私で傷つくだけ傷つきなさい。



お願い…誰が傷ついてもいい…たとえ傷ついたのが貴女でも私自身でも…お願い、私を見て私を愛して…
私は、壊れてしまいそうなくらい貴女を愛しているんだから…






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